RESASの活用事例 〜ビッグデータを活用してできること〜
2021年4月1日 | マーケティング
「官民で広がるオープンデータ、その活用事例とは」では、「信頼性が高く、自由に使えて、無償」と三拍子揃ったオープンデータを取り上げました。
もし、そのオープンデータを中心とした豊富なデータベース群が、Webサイトにアクセスするだけで誰でも簡単に使えて、しかも地域経済や産業立地、人の流れなどの分析までできたら‥‥便利だと思いませんか?
今回は、官民ビッグデータを集約して可視化する地域経済分析システム「RESAS(リーサス)」の価値と、活用の実態を探ってみます。
■ RESAS(利用推奨環境:Google Chrome、Internet Explorer11)
https://resas.go.jp/
産業構造や人口動態、人の流れなどの官民ビッグデータを、あらゆる角度から、マップやグラフ等で見ることができるサイト。地方創生の様々な取り組みを情報面から支援するために、経済産業省と内閣官房(まち・ひと・しごと創生本部事務局)が提供している。
目次
※以下文中の【 】内は、RESASのメニュー名です。
課題を可視化し、「稼ぐ力」が強い産業をさらに強化した会津若松市
RESASは2015年のリリース以降、地方創生支援という目的が示すとおり地方自治体を中心に利活用が進んでいます。
まずは公開されているさまざまな自治体の事例の中から、会津若松市を例に「RESASを使った分析→課題の可視化→施策実施」の過程を通して、RESASのどんな機能やデータベースがどのように役立ったのかを見ていきます。
会津若松市では、始めに市の産業構造を確認するため、RESAS「地域経済循環マップ」の【地域経済循環図(※1)】と【生産分析(※2)】により、市における地域経済循環を分析しました。その結果「移輸出入収支額」がマイナスであることと、その影響で「域際収支(※3)が赤字である」ことが分かりました。これは地域の所得が域外に流出していることを示しており、黒字に転換するには「域外から稼ぐ力を向上させる改善が必要」という課題が「見える化」されました。
そこで同市では、国勢調査と経済センサスから市内の産業別「特化係数」を算出する独自分析によって「域外から稼ぐ力が強い産業(移出産業)」を特定し、その産業をさらに強化する方針を固めました。具体的には、特化係数が高く、移輸出入収支もプラスである電子デバイス・光学機器関連産業や酒造業、漆器業、観光業を「稼ぐ力が強い産業」であるとし、これらの産業の分析と強化方法の検討をおこないました。
結果、これらを踏まえた2つの施策が実施されました。酒造好適米等の出荷量増加や安定生産を実現するために農業へのIoT導入に関する補助金を支給する「スマートアグリ実証事業補助金の創設」と、外国人観光客に対して会津地域の観光コンテンツや体験ルートを提供する「デジタルDMO事業の創設」です。
特にデジタルDMO事業は、周辺7地域の広域連携事業へと発展。外国人の嗜好性調査を基にしたレコメンド機能やSNSのインフルエンサー(外国人)を活用したプロモーションなどのデジタルインバウンド戦略を展開し、観光客の増加につながりました。
※1 地域経済循環図
地域のお金の流れを生産、分配、支出の三段階で表示するとともに、各段階におけるお金の流出・流入状況を表示する。
※2 生産分析
産業別の移輸出入の収支状況を表示。ある産業の経済動向が、他産業の経済動向に及ぼす「影響度」や、地域全体の経済動向から受ける「感応度」も表示する。
※3 域際収支
国際収支を地域経済に当てはめた用語。地域の所得の一部は域外との取引によって生じており、その移輸出と移輸入の差額が域際収支となる。
■ RESAS利活用事例集2017
https://resas.go.jp/case/#/13/13101
人の流れやインバウンド消費傾向⋯、民間データも多彩なメニューに
RESASの最大の特徴は、官公庁が保有するデータだけでなく、以下のような民間企業のデータも利用できるという点です。民間データは更新頻度の高いデータが多く、比較的新鮮なデータを利用できます。
- 産業構造マップ
【全産業の構造(一部)※】 - 企業活動マップ
【産業間取引※】【企業間取引※】【経営者平均年齢※】【中小・小規模企業財務比較】 - 消費マップ
【消費の傾向(POSデータ)】【From-to分析(POSデータ)】【外国人消費の比較(クレジットカード)】【外国人消費の構造(クレジットカード)】【外国人消費の比較(免税取引)】【外国人消費の構造(免税取引)】 - 観光マップ
【目的地分析】【From-to分析(宿泊者)】【外国人訪問分析】【外国人滞在分析】【外国人メッシュ】【外国人入出国空港分析】【外国人移動相関分析】 - まちづくりマップ
【From-to分析(滞在人口)】【滞在人口率】【流動人口メッシュ】【建物利用状況】【事業所立地動向】
「消費マップ」の【消費の傾向】は、地域のスーパー、ドラッグストアのレジのPOSデータを基に飲食料品や日用品などの購入金額や購入点数などを表示します。同じPOSデータを基にした【From-to分析】は、生産地と消費地の関係、消費地別シェアの推移を表示します。
【外国人消費の比較(クレジットカード)】など、外国人の消費動向メニューも充実しています。クレジットカードの消費履歴や消費額を基にした外国人訪問客の消費傾向や、免税店販売額の地域・国別、性別等の構成比などがわかります。
「観光マップ」の【目的地分析】では、経路検索サービスの利用情報を基に検索回数の多い観光施設などを表示し、【From-to分析(宿泊者)】では、宿泊客がどの地域から来ているのかなどが調べられます。
訪日外国人関連では、国・地域別、訪日目的別の外国人の訪問人数と四半期毎の推移や、昼間と夜の滞在状況など多方面からのインバウンド分析が可能になっています。
「まちづくりマップ」にも民間企業でしか得られないデータコンテンツが目立ちます。たとえば【From-to分析(滞在人口)】は、携帯電話の運用データを基に「ある都道府県、市区町村に滞在した人が、どこの都道府県・市区町村から来たか」を、平日・休日別、時間帯別、性別、年代別(15〜79歳)に把握することができます。
また【流動人口メッシュ】は、携帯電話のアプリ利用者の位置情報を用いて、月別、平日・休日別、時間帯(1時間単位)別の流動人口の推移を、500mメッシュ単位(政令指定都市と東京 23 区は 250m メッシュ単位)で把握することができます。
※は限定メニュー(国および地方自治体職員が一定の制約の下で利用可能)。
■ マップ出典一覧
https://resas.go.jp/source/#/
■ RESASデータ更新日
https://resas.go.jp/update/#/13/13101
企業・店舗等の業種別分布状況、経年変化を可視化する【事業所立地動向】
実は、当社・日本ソフト販売もRESASのコンテンツの一つとして業種別法人電話帳データを提供しており、「まちづくりマップ」の【事業所立地動向】で利用できます。
【事業所立地動向】では、地域と業種を選んで、電話帳に登録のある事業所を地図上にプロットできます。販売・卸や製造・加工といった大きな分類での表示はもちろん、肉屋やパン屋、家電店、銭湯、法律事務所など細かい分類でのマッピングも可能です。
また、「地域選択モード」をオンにして任意の地域をマウスで囲むと、そのエリア内の産業別割合や事業所・店舗数の推移なども表示することができます。
たとえば、東京の神田神保町周辺を指定して地図上に古本屋を表示し、さらに「選択地域内の産業別推移」を表示すると、2011年から2018年までの古本屋店舗数の推移が折れ線グラフで表示され、2015年以降緩やかに下降していることが見て取れます。
活用法としては、中心市街地の業種別事業所割合や地域経済の流れなどを調べることにより、市街地活性化や中心商店街振興などの参考資料として役立てることができます。8年間のデータ(2020年2月現在)があるため、経年変化も含めて把握でき、他地域の状況との比較も可能です。
また、出店・開業などの際に簡単な立地調査がおこなえます。たとえば美容院を開業したいと思ったとき、表示する産業を「その他サービス」-「理容・美容」-「美容院」と絞っていくと、ライバル店がどのくらいあるのかが把握でき、マルで表示された地図上の店にマウスポインターを合わせると店名も確認できます。過去のデータに遡れば、長く営業している店なのか、最近の出店なのかといったこともわかります。
地域における業種ごとの分布状況や、企業立地の経年変化が可視化できるため、企業環境の変化から新店舗の出店計画や販売計画に見直しを図る場合などにも役立つコンテンツです。
■ 日本ソフト販売 RESAS紹介ページ
https://www.nipponsoft.co.jp/solution/greenpage/resas/
官民データの「宝の山」、使わない手はない
RESASは、スタート以来新しいデータコンテンツが追加されており、より使いやすいようインターフェースも改善されてきました。既に搭載されているデータについても順次最新のデータに更新するなど、今も進化が続いています。
2020年6月には、新型コロナウイルス感染症が地域経済に与える影響を可視化する目的で、「V-RESAS」も公開されました。
今回紹介したメニューや活用法はほんの一部であり、RESASには官民の膨大なデータが宝の山のように埋まっています。
とはいえRESASですべてがわかるわけではありません。実際に地域の現状を正確に把握するには、RESASの単体のメニューに止まらず複数のメニューを合わせて利用したり、RESAS以外のオープンデータや自治体・企業の独自データなど、さまざまなデータをかけ合わせたマッシュアップが必要です。さらには現地の実情調査や検証も必要になるでしょう。
重要なのは、RESASのデータから導き出された客観的な現状や課題が、今後の施策や戦略を立案する上で数々の気づきを与え、仮説や予測につながることです。
行政機関や金融機関、企業といった施策・戦略を立てるユーザーだけでなく、一般市民も地元の現状や課題を気軽に分析できます。たとえば「労働生産性が低いといわれる日本の中でわが地域の立ち位置は?」「わが地域の主要産業の付加価値は高いのか低いのか?」など、国や地方が抱える課題や社会問題を深掘りするきっかけにもなります。
データ活用の重要性が盛んに喧伝される昨今、わかっていても何から始めたものかほとんどの人が戸惑ってしまうの実情です。また「データを収集し、使いやすい形に整理・加工し、ツールを使って分析して有効に活用する」といった一連のプロセスは、実はかなりハードルが高い作業です。
そんなとき、無料でビッグデータを多角的に可視化できる仕組みができているRESASは貴重な存在。利用しない手はないし、データ活用を始める入口にするのも良いかもしれません。
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RESASに採用されている、全国の事業所データベースについての詳しい情報を掲載しています。
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